自動車整備業界は、人口減少や自動車保有台数の頭打ちといった逆風がある一方で、直近では売上規模の拡大が続いており、令和6年度の調査結果からは、市場全体の底堅さと同時に、整備工場が直面する構造的な課題も浮き彫りになっています。
本記事では、最新の公的データをもとに整備工場市場の現状を整理し、今後の経営において重要となる論点を解説します。
目次
令和6年度の自動車特定整備業実態調査によると、国内の総整備売上高は 6兆2,561億円 に達し、前年度比で 5.9%増 と3年連続の増加となりました。
特に令和に入ってからは、これまでで最も高い伸び率を記録しています。
業態別に見ると、専業・兼業の整備工場、ディーラー、自家整備のすべてで売上が増加しており、特定の業態だけが成長しているわけではありません。
この点からも、整備需要そのものは依然として安定していると考えられます。
作業内容別の内訳を見ると、市場構造の変化が見えてきます。
車検整備や定期点検整備も堅調に推移していますが、特に伸びが大きいのは事故整備とその他整備です。
事故整備は前年度比9.6%増、その他整備は 8.8%増と高い伸びを示しています。
これは、保険修理単価の上昇や、高度化する車両構造に伴う整備工数の増加が影響していると考えられます。
一方で、従来の「車検中心モデル」だけでは成長が限定的になる可能性も示唆されています。
全国の整備事業場数は92,384事業場と、前年度より0.6%増加しました。
一見すると参入や存続が続いているように見えますが、内訳を見ると、指定工場数は 29,932事業場と、前年の30,090事業場から減少しています。
これは、設備投資や人材確保が難しくなり、指定工場の維持を断念するケースが増えている可能性を示しています。
事業場数の増加と指定工場数の減少という動きは、業界内の二極化を示す兆候ともいえるでしょう。
整備関係従業員数は、562,869人と7年連続で増加しています。
整備要員数、整備士数ともに微増しており、一見すると人手不足は解消に向かっているようにも見えます。
しかし、より重要なのは中身です。整備士保有率は82.8%と低下傾向が続いており、資格を持たない要員の比率が高まっています。
さらに、整備要員の平均年齢は47.4歳と上昇しており、将来的な技術承継リスクは依然として大きいままです。
女性整備士の割合も3.2%にとどまっており、多様な人材活用はまだ道半ばといえます。
整備要員1人あたりの年間整備売上高は1,562万円と、前年から5.2%増加しました。
これは整備単価の上昇や業務効率化の成果といえるでしょう。
ただし、業態別に見ると差は大きく、ディーラーは2,518万円、専業・兼業は1,137万円と約2倍の開きがあります。
この差は、設備投資力やIT化、メーカー支援の有無など、構造的な要因によるものです。
中小整備工場にとっては、生産性向上が今後の経営を左右する重要テーマとなります。
市場全体は拡大しているものの、すべての整備工場が同じように恩恵を受けられるわけではありません。
今後の経営では、以下のような視点がより重要になります。
高度化する車両技術(EV・ADAS等)への対応
人材確保・育成と技術承継
車検依存からの脱却と収益源の多角化
規模拡大やM&Aによる経営基盤の強化
これらの課題に対し、近年とくに注目されているのが、M&Aを経営戦略の一環として活用する動きです。
従来、M&Aは「廃業前の最終手段」と捉えられがちでしたが、現在では状況が大きく変わりつつあります。
整備工場経営におけるM&Aの最大の意義は、後継者問題と投資負担を同時に解決できる可能性がある点にあります。
整備士の高齢化や資格者不足が進む中、事業を単独で維持し続けることが難しくなっている工場は少なくありません。
M&Aにより、人的リソースや設備投資力を持つ企業グループの傘下に入ることで、事業の継続性を確保しやすくなります。
また、買い手側にとっても、既存の整備工場を取得することは有効な成長戦略となります。
新規出店と比べて、立地・顧客基盤・認証資格・人材を一括で引き継げるため、時間とコストを抑えた事業拡大が可能です。
自動車整備業界は、依然として 安定した需要と拡大する市場規模を維持しています。
一方で、設備投資・人材・技術対応といった経営課題は年々重くなっており、従来の延長線上だけでは将来の安定は保証されません。
今後は、自社の立ち位置を客観的に把握し、成長か承継かを見据えた戦略判断 が求められる時代に入っています。
市場が堅調な今だからこそ、経営の選択肢を整理し、次の一手を考えることが重要といえるでしょう。
執筆パートナー執筆者 | 加藤 良大 |
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パートナー情報 | ライティング歴10年超のフリーライター。医療・美容・制度・ビジネス全般など幅広いジャンルで専門家から高評価を得ている。執筆実績は2万本以上。3人の父であり、1人が障害を持っているため、児童関係の制度や介護に関する情報にも詳しい |
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