自社の成長戦略として、M&Aを積極的に活用する企業は着実に増えています。
しかし、M&Aはすべてが成功するわけではなく、買収後にシナジーが生まれず、むしろ業績悪化を招くケースも少なくありません。
本記事では、近年の自動車・運送業界のM&A事例を取り上げたうえで、成功する会社と失敗する会社の違いについて解説します。
目次
自動車業界の「100年に一度の変革期」や、物流業界における「2024年問題(人手不足・労働時間規制)」など、この分野では事業存続と成長のための構造改革が急務となっています。
こうした背景から、規模の拡大や異業種参入、サービス強化を目的としたM&Aが活発に行われています。
カー用品大手の株式会社オートバックスセブンは、ホームセンターを展開する株式会社ジョイフル本田から、同社の子会社であった「株式会社ジョイフル車検・タイヤセンター」の全株式を取得し、子会社化しました。
若者の車離れや車両の長寿命化により、カー用品の「物品販売」だけでは成長が鈍化する中、オートバックスは整備や車検といった「サービス(コト消費)」領域の強化を戦略に掲げています。
本件M&Aにより、北関東エリアで高い集客力を持つジョイフル車検の拠点を獲得し、整備インフラの拡充と新たな顧客基盤の取り込みを実現しました。既存の用品販売ビジネスと整備事業のシナジーを追求した事例です。
物流大手のSBSホールディングスは、株式会社東芝の子会社であった「東芝ロジスティクス株式会社(現:SBS東芝ロジスティクス)」の株式の66.6%を取得し、子会社化しました。
EC需要の拡大で物流業界の競争が激化する中、SBSグループはM&Aによる規模拡大とネットワーク強化を成長戦略の柱としています。
本件により、SBSは東芝ロジスティクスが持つ家電・精密機器の輸送ノウハウや海外ネットワークを獲得し、東芝グループという巨大な荷主を安定的に確保することで、グループ売上高を一気に押し上げました。
大手メーカーの物流子会社を独立系物流企業が取り込むことで、相互補完によるサプライチェーン強化を図った大型成功事例です。
自動車ディーラー大手のVTホールディングスは、積極的なM&Aにより成長を続けている企業です。
同社は、後継者不足や販売不振に悩む地方の正規ディーラー(日産系、ホンダ系など)や、海外のインポーター(ケータハム等)を次々と買収しました。
同社のM&Aの特徴は、買収後の「収益改善力」にあります。管理部門の統合によるコスト削減に加え、中古車販売の強化や、レンタカー事業(J-netレンタリース)との連携など、独自の経営ノウハウ(KPI管理)を注入することで、買収した店舗の黒字化・高収益化を実現しています。
単なる規模の拡大だけでなく、明確な「勝利の方程式」を持ってM&Aを行っている好例です。
国内の物流・郵便事業が成熟期を迎える中、日本郵政はグローバル展開を加速させるため、2015年にオーストラリアの物流大手「トール・ホールディングス」を約6,200億円で買収しました。
トール社はアジア・オセアニア地域に強みを持つ総合物流企業であり、この買収により「世界トップ5の物流企業」を目指すという壮大な戦略が描かれていました。
しかし、買収直後から豪州経済の減速(資源価格の下落)による景気悪化が直撃し、トール社の業績は低迷。さらに、日本側からのガバナンスが十分に機能せず、高コスト体質の改善や統合作業(PMI)が遅れることに。
その結果、買収からわずか2年後の2017年に約4,000億円もの巨額な減損損失を計上。
最終的に、2021年にトール社の主力事業(エクスプレス事業)を投資ファンドへ、わずか約7億円などで売却し、事実上の撤退となりました。
この失敗の主因として挙げられるのが、買収前の「デューデリジェンス(価値査定)の甘さ」と「PMI(統合プロセス)の不全」です。
成長シナリオを楽観的に見積もりすぎたことで高値掴みとなり、買収後も現地の経営をコントロールしきれなかった点が、致命的な損失を招く結果となりました。
M&Aは「買収すれば成長できる」という単純なものではありません。
同じように事業を買収しても、業績が伸びて事業シナジーが生まれる企業もあれば、逆に管理コストや離職・ブランド価値の低下を招き、買収前よりも苦しくなる企業もあります。
その差を生むのは、M&Aに臨む姿勢・準備・統合プロセスの設計です。
M&Aを成功させる企業は、まず「なぜその会社を買うのか」という目的が明確です。
事業戦略の一部としてM&Aを位置付けており、買収によって得たい成果(新市場参入、事業拡大、技術獲得など)が具体的に描かれています。
さらに、買収後の統合作業(PMI:Post Merger Integration)を事前に計画しており、組織文化や顧客層の違いを把握したうえで、現場が混乱しないように調整を行います。
財務面や人材面もしっかりと分析し、期待するシナジーを現実的に評価する姿勢が特徴です。
失敗しやすい企業は、「とりあえず成長したい」「競争力をつけるために買う」といったように、目的やゴールが曖昧なまま買収を進めてしまうケースが多く見られます。
また、買収後の統合プロセスを十分に検討していないため、企業文化や仕事の進め方のギャップが現場で大きな負担となり、結果として人材流出や顧客離脱につながることがあります。
さらに、期待しているシナジーを過大評価して高値で買収してしまうと、投資回収が困難になり、経営に長期的な重荷を残してしまいます。
M&Aを成功させるうえで最も重要なプロセスが、デューデリジェンス(Due Diligence)です。
財務・法務・税務・ビジネスモデル・人材構成・取引関係といった要素を多面的に調査することで、下記の実行を可能にします。
適正な企業価値の算定
買収後に発生し得るリスクの把握
PMI(統合後の成果最大化)の事前設計
デューデリジェンスを軽視したままM&Aを進めると、「想定した利益が生まれない」「主要人材が離職する」「顧客が離れる」といった問題が顕在化し、M&Aの効果は大きく損なわれます。
M&Aは、買う前の調査と、買った後の統合で結果が決まると言っても過言ではありません。
本記事で紹介した事例に共通する点は、いずれも自社の中長期的な事業戦略の中にM&Aが明確に位置づけられていることです。
反対に、目的が不明確なまま進められたM&Aは、買収後の統合がスムーズに進まず、期待した効果を得られないことが多く見られます。
M&Aを成功に導くためには、まず「何のために行うのか」という戦略を明確にし、その上で対象企業の実態を丁寧に把握するデューデリジェンスを実施し、買収後の統合プロセス(PMI)を事前に設計しておくことが不可欠です。
M&Aは買収した瞬間がゴールではなく、そこからどのように価値を創出していくかが成果を左右します。
執筆パートナー執筆者 | 加藤 良大 |
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パートナー情報 | ライティング歴10年超のフリーライター。医療・美容・制度・ビジネス全般など幅広いジャンルで専門家から高評価を得ている。執筆実績は2万本以上。3人の父であり、1人が障害を持っているため、児童関係の制度や介護に関する情報にも詳しい |
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